グローバル化と労働市場を研究する経済学Ph.D.学生のブログ

イェール大学経済学部Ph.D.学生のブログです。研究日誌メイン。ニュースや最新研究の発信も。

Currie, Jin, and Schnell (2018)

今日は最新のNBER working paperから1本興味を持った論文を紹介します:

 

U.S. Employment and Opioids: Is There a Connection?

 

最近アメリカで話題になっているオピオイドと呼ばれる麻薬の一種に関する論文です。日本語ではアヘン用合成麻酔薬などと訳されたりするようです。アヘンなどというと物騒ですが、アメリカでは普通に処方されてたりするようです。近年、この薬物の使用の拡大が労働力人口の減退につながっているという主張がニュースなどでよく見られます。(こういう時パッと引用元を示せればいいのですが、いかんせん記憶力が良くなくて思い出せません。記憶力に頼らない方法を模索中…)

 

この論文は、その主張の真偽を確かめ、かつ政策提言の根拠となるような証拠を実証的に洗い出そうという論文です。アメリカの2006年から2014年のcountyレベルデータを使って、労働力人口の総人口に占める割合とオピオイド処方率の間の関係を分析します。オピオイド処方率というのは、各countyの一人当たりオピオイド処方数で測られているみたいです。それぞれのcountyの健康状態などが推定結果に影響を及ぼしていないのか気になりますね。例えば健康状態の悪いcountyではオピオイドが多く処方され、かつ労働力人口が少なくなることが考えられますから、これはオピオイド労働力人口を減らす効果を過大に推定してしまうことが考えられます。

 

で、さらに問題となるのは、オピオイド処方率と労働力割合の間の同時性と呼ばれる関係性です。今まではオピオイド処方率が労働力に影響する方向性のみを考えていましたが、実際は、労働力割合がオピオイドに影響する因果関係もありそうです。それをクリアするための計量経済学的な手法として、ラグつき説明変数、county別固定効果、Bartik instrumentの3つを使っています。最後のBartik instrumentというのは、労働力割合に影響するけど、オピオイド処方率には影響しなさそうな変数を操作変数に使って、労働力割合がオピオイド処方率に与えた影響を推定しようという方法です。

 

様々な分析手法を駆使して分析した結果、オピオイドが労働力割合に与える影響は、女性には小さいが正(!)で、男性には影響が見られなかったとのことです。また、逆の因果である労働力割合がオピオイド処方率に与える影響も、統計的に有意な結果を得られたなかったとのことです。著者たちが得た政策含意は、経済をよくすることでオピオイドクライシスを和らげられるという従来の主張に対する積極的な答えは見出せなかったとのことです。

 

 

のっけから憂鬱な論文を紹介してしまった…。しかも、あまり統計的にはっきりした事が言えない論文だったし。ただ、ある意味いい結果が出なかった論文も報告するというのは重要なことですよね。特に、オピオイドみたいな社会的に注目を浴びていて重要な問題であればなおさら。しかも最近はp<0.05に重きを置くことへの批判もありますし(ここでもその具体的な引用は思い出せない。2年前くらいにツイッターでブームみたいになってた気がする)

 

 

ブログのスタイルについて。うーん、どの辺まで丁寧に書けばいいのか悩み中。操作変数法とかは説明しなくてもよいのか否か。ツイッターの時にはここまで説明口調で書いていなかったし、もっと書きたいことを殴り書いていくスタイルでもいいのかもしれない。でも、アメリカの最新経済学研究を日本語でできるだけ多くの人に分かりやすく正確に発信するのはなかなかない付加価値だと思うし、そこを譲りたくない気持ちもある。だけど、最新・多くの人に分かりやすく・正確に、というのは絶対達成できないトリレンマなのかもしれない。最後の正確性がどうしても犠牲になってしまうか。でもそこをどうでもいいとするといい加減な文章を書いてしまいそう。まだまだ試行錯誤は続きそうです。